共通テュルク文字(きょうつうテュルクもじ、トルコ語: Ortak türk alfabesi; アゼルバイジャン語: Ortaq türk əlifbası / اورتاق تورک الیفباسی; タタール語: Уртак төрки әлифба, ラテン文字転写: Urtaq törki älifba; カザフ語: Ortaq türkı älıpbiı; ウズベク語: Oʻrta turkiy alifbo)はトルコ語アルファベットを基に全テュルク諸語共通のラテン文字を策定する計画であり、テュルク諸国機構によって34文字が承認されている。以下に文字を示す。

  • (トルコ語では)長母音はサーカムフレックス付の文字 Â, Ê, Î, Ô, Û によって示される。Î は I ではなくİ に対応していることに注意。

歴史

ソビエト連邦の崩壊によって独立した新生共和国のうち、テュルク諸語が主に話されている国々では汎テュルク主義が再び花開き、結果としてラテン文字再興を目指す運動が盛んになった。トルコの主導によって、統合を目指し、テュルク語統一文字を作る科学シンポジウムが1991年11月にイスタンブールで開催された。トルコ語アルファベットを基にしつつ、新たに ä, ñ, q, w, x が追加された。結果として34文字が定められ、うち29文字がトルコ語由来であった。

1991年12月、アゼルバイジャンが初めてこの文字を採用し、ウズベキスタンでも1993年9月に採用が提案されたが、依然としてキリル文字を使用し続けている。1993年9月、アンカラでの定例会でアゼルバイジャン、トルクメニスタン、ウズベキスタン代表がそれぞれ正式に新文字の採用を表明した。

しかしながら、既に1992年時点でアゼルバイジャンは独自の文字改革を実施し、ä を古キリル文字およびヤナリフに由来する ə によって置き換えた。2000年以降、政府はアゼルバイジャン国内の出版及びメディアでラテン文字のみの使用を定めており、キリル文字を正式に廃止している。

1995年5月、ウズベキスタン政府は26文字からなる標準ラテン字を基にしたウズベク語の文字の採用を決定し、カラカルパク語でも同様の文字が採用された。

トルクメニスタンは共通テュルク文字制定に関与していたにもかかわらず、1993年にポンド記号(£)、セント記号(¢)、ドル記号($)など独特の文字を用いた独自の文字を公式に採用した。その後、一部の文字を除いて一般的なテュルク文字と大きく異なるラテン文字を採用している。政府の文字政策が安定していないこともあり、反政府勢力はトルクメン語キリル文字を使用し続けている。

結果として、アゼルバイジャン語(1991年、1992年に1文字の変更)、ガガウズ語(1996年)、クリミア・タタール語(1992年、1997年後公式化)、タタール語版ウィキペディアのタタール語(2013年)およびいくつかのマスメディアのみが共通テュルク文字を(いくらかの変更を加えつつ)1999年以降も使用し続けている。

1999年9月に導入され、2005年1月に廃止されたタタール語ラテン文字は細かな差異が存在した(ñ の代わりに ŋä の代わりに ə をそれぞれ使用し、またトルコ語の ö には ɵ が対応していた)。2012年12月24日以降、共通テュルク文字はタタール語キリル文字の翻字として正式に使われている。

2019年、ウズベク政府は"ts", "sh", "ch", "oʻ" および "gʻ" の発音にそれぞれ対応した文字 "c", "ş", "ç", "ó" および "ǵ" を追加した改良ウズベク語ラテン文字を発表した。これによって1995年の文字改革は上書きされ、よりトルコ語、トルクメン語、カラカルパク語、カザフ語(2018年版正書法)、アゼルバイジャン語に近い正書法が採用された。

2021年4月、文字 Ä ä (Ə ə), Ö ö (Ө ө), Ü ü (Ү ү), Ğ ğ (Ғ ғ), Ū ū (Ұ ұ), Ñ ñ (Ң ң), Ş ş (Ш ш) が追加された改良版カザフ語ラテン文字が発表された。2023年から正式に採用される。

テュルク学会およびトルコ言語協会の協力のもと、2024年9月9日から11日にかけてアゼルバイジャン・バクーで第3回テュルク語世界共通文字委員会が開催された。テュルク諸国機構(OST)加盟国の委員が出席した会議では、共通テュルク文字案について合意が得られた。34文字からなる共通テュルク文字は、テュルク世界のさまざまな方言や言語ニーズを考慮して制定された。

書記素・音素対応

テュルク諸語の正書法は極めて音素的であり、ふつう綴りから容易に発音を推測できる。固有名詞など、近年の借用語は例外である。テュルク諸語で母音を表す文字はアルファベット順に ⟨a⟩, ⟨ä⟩ および ⟨e⟩, ⟨ı⟩, ⟨i⟩, ⟨o⟩, ⟨ö⟩, ⟨u⟩, ⟨ü⟩ である。

  • 半母音(Glottal Letters)はブレーヴェ(チュヴァシ語ではカロン)記号で表される: Ă, Ĕ, Ĭ, Ŏ, Ŭ.
  • 音素 /θ/ (ラテン文字の Š または Ť, アラビア文字の ث, キリル文字の Ҫ に対応)はバシキール語にのみ存在する。
  • 音素 /ð/ (ラテン文字の Ž または Ď, アラビア文字の ذ, キリル文字の Ҙ に対応)はバシキール語にのみ存在する。
  • Ä はしばしば Əə または Ǝǝ と表記される(ラテン文字)。
  • 音素 /t͡s/(Ț)および /d͡z/(Ḑ)はリプカ・タタール人のベラルーシ語アラビア文字に対応する。
  • 手書き上で表記ゆれが存在する場合がある。例えば: Čč=Jj, Ķķ=Ⱪⱪ, Ḩḩ=Ⱨⱨ
  • キリル文字 Ѕ, Љ, Њ はそれぞれ Ӡ, Ԡ, Ԣ と表記されることがある。
  • ٯ = ق(/q/に対応)または ڨ(/ɢ/に対応)。
  • (ص), Ż (ظ), および (ط) は S, Z, および T/D の前後にある文字の違いを反映している。しばしば語頭で使われ、その後に続く母音が後舌母音であると示している。もし S, Z, T, あるいは D が後舌母音を伴わずに語中に表れる場合は「軟らかい」あるいは中立的な S (س), Z (ز), T (ت) または D (د) でそれぞれ表記される( (ط) は T および D 両方の後舌母音に対応する)。トルコ語と異なり、アラビア語にはこのような母音依存型の規則は存在せず、語内の任意の場所にこれらの文字が現れる。 例えば Ṡahib, Ṡabun, Huṡuṡ, Ṡabr など。

非テュルク(キリルまたはアラビア)文字

  • Ţ(セディーユ付きのT, 小文字: ţ)はルーマニア語アルファベットに由来する文字で、ルーマニア語およびモルドバ語の無声歯茎破擦音 /t͡s/(英語 boltsts と同じ発音)を表す。Tの下に小さなコンマ記号が付いた形をしており、大文字及び小文字が存在する。ガガウズ語アルファベットおよびリヴォニア語アルファベットで用いられる。キリル文字の Ц に対応する。
  • (セディーユ付きのD, 小文字: )は古いルーマニア語アルファベットに由来する文字で、古ルーマニア語およびモルドバ語の有声歯茎破擦音 /d͡z/ を表す。Dの下に小さなコンマ記号が付いた形をしており、大文字及び小文字が存在する。リヴォニア語アルファベットでも用いられる。キリル文字の Ѕ に対応する。
  • ض)はアラビア文字の転写にのみ用いられる。この文字の表す音はテュルク語に存在しない。例えば Ramaḋan, Kaḋı, Kaḋa, Ḋarb, Ḋarbe, Arḋ など。
  • ラテン文字 Ë(Eウムラウト)はキリル文字 Ё(Yo)と無関係である。Ë は /je/ の音を表し、キリル文字ではウクライナ語の Є やロシア語の Е に対応する。
  • キリル文字 Ѕ, Љ, Њ はすべてセルビア語およびマケドニア語に由来し、共通テュルク文字と同じ音を表す。


ソビエト連邦

新テュルク文字Jaꞑalif, ヤナリフ)はソビエト連邦の非スラヴ民族間で1920-1930年代に用いられていたラテン文字である。新文字は「w」を除いた基本的なラテン文字を用いつつ、キリル文字からの借用もいくつか存在した。以下にソビエトのヤナリフと現代の共通テュルク文字(CTA)の対応表を示す。


キー配列

トルコ語の標準キー配列を以下に示す。

参考文献

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注釈

脚注


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